地下鉄の階段を上がったら外は雨が降っていた。
傘は持っていなかったのでパーカーのフードを被って歩き出した。
雨の街は、雨音が余計な音をかき消すから、静かだ。
足音、足音、足音、足音、四つ打ち。
止まらなくなって曲がるべき角も過ぎ、四つ打ちのリズムで進んでいく。
雨は強くなって、いつの間にか足音もザッザッザッザッから切れの悪いばしゃばしゃばしゃばしゃに変わる。
ざぶざぶに変わってそのうち歩く音もくぐもってきて、進んでいるのかどうかもわからなくなった。
暗い夜の暗い水の底にはもう雨の音が聞こえない。
見上げると何の光か、上の方で揺れているのでほっとした。
いろんな声がする。
自分を呼ぶ声や笑い声や会話の断片のようなもの。
聞き取ろうとすると幾重にも増えてもっとややこしい。いつものことだ。
目を閉じて体の力を抜く。
ざわざわして耳の奥にはもう何も届かなくなった。
ざわざわざわざわにどこかに運ばれる。


あの光は何の光だったのかなあ。
砂嵐のようになった頭の中でそれだけ考えた。
雨は降ったり晴れたりする。